近年、仕事が原因でうつ病や適応障害などメンタルの病気になる人は増えています。
「明らかに仕事のせいだから労災だ」
「会社に労災を認めさせて、反省と改善をしてほしい!」
と考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ただ、精神疾患の労災認定はかなりハードルが高いのが特徴です。この記事では、メンタルの病気に関する労災の申請方法や認定基準、メリット・デメリットについて詳しく解説します。
社会復帰の準備なら…
こんな方におすすめ
- 仕事が原因でうつ病や適応障害などメンタルの病気になった人
- 労災の申請方法や認定基準を知りたい人
- 労災申請のメリット・デメリットを知りたい人
執筆者
やっさん
- 人事・労務歴14年
- 一部上場企業やベンチャー企業など4社で勤務
- 採用面接や給与計算、社会保険手続きなどを担当
- FP2級、ビジネスキャリア検定(人事)3級
労災とは
労災は正式名称を「労働者災害補償保険」と言います。この制度の概要は、次の通りです。
- 業務上・通勤上のケガや病気を補償する制度
- 正社員だけでなく、パートやアルバイトも対象
- 認定するのは、会社ではなく労働基準監督署
- 認定されると、保険給付が受けられる(※)詳細は別表を参照
労災について、よく「バイトだから申請できない」「会社が認めてくれない」といった声を聞きますが、どちらも誤りです。会社に雇われて働く人は、パートやアルバイトでも申請できます。また、労災かどうかを判断するのは会社ではなく、労働基準監督署(以下、労基署)だという点も重要です。
労災の主な保険給付と内容は以下の通りです。
*(補償)と表記してあるのは、業務災害と通勤災害で呼び方が異なるためです。業務災害の場合は「補償」をつけて呼びます。
保険給付の種類 | 内容 |
療養(補償)等給付 | 医療機関での治療や薬を給付 |
休業(補償)等給付 | 労働できない期間の賃金補償 (休業4日目から日額の約60%) |
障害(補償)等給付 | 障害が残った場合に、年金や一時金を給付 |
遺族(補償)等給付 | 死亡した場合に、遺族に年金や一時金を給付 |
葬祭料等(葬祭給付) | 死亡した場合に、葬儀の費用を給付 |
傷病(補償)等年金 | 1年6ヶ月後に傷病が治っていない場合に年金を給付 |
介護(補償)等給付 | 介護が必要な状態になったときに介護費用を給付 |
二次健康診断等給付 | 健康診断で特定の異常があった場合に精密検査などを給付 |
参考:労災補償 |厚生労働省
労災申請の方法
労災の申請方法は、ケガでもメンタルの病気でも基本的には同じ流れになります。大まかな流れは次の通りです。
【労災指定病院の場合】
- 病院で治療を受ける
- 労災の申請書を記入し、会社の証明欄を書いてもらう
- 2を本人が病院に提出する
- 病院が労働基準監督署に提出する
- 労働基準監督署が認定すると、病院に対して治療費が支払われる
【労災指定病院以外の場合】
- 病院で治療を受け、領収書をもらう
- 労災の申請書を記入し、会社の証明欄を書いてもらう
- 2に領収書など必要書類を添えて、本人が労働基準監督署に提出する
- 労働基準監督署が認定すると、本人に対して治療費が支払われる
日常生活で病院を受診するときは、受付で健康保険証を提示して、医療費の3割を負担していると思います。しかし、労災の場合は健康保険が使えないので、保険証の提示は必要ありません。労災が認められれば、労災保険から医療費が出るので、自己負担はゼロになります。
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メンタルの病気に関する労災認定要件
メンタルの病気が労災認定されるためには、次の3つを満たすことが必要です。
- 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
- 認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
- 業務以外の心理的負荷や個体側要員により発病したとは認められないこと
1の「対象となる精神障害」は具体的な病名が決められていて、うつ病や適応障害、急性ストレス反応などが対象です。また2の「強い心理的負荷」についても、かなり具体的な基準が示されています。例えば「会社で起きた事件・事故の責任を問われた」や「残業が○か月連続で○時間以上」など、30項目以上あります。
さらに、3の要件も重要です。簡単に言うと「私生活のストレスや本人の性格が原因で発症したのではなく、明らかに仕事のせいだ」ということを意味します。この1~3を全部満たして初めて、労災が認定されるというわけです。
【結論】メンタルの病気による労災申請はおすすめできない
私は実際に複数の会社で労災申請を見てきましたが、結論から言うとメンタルの病気による労災申請はおすすめしません。これは、私が会社の味方だから言っているのではありません。もし今、私の大切な家族が仕事のせいでうつ病になったとしても、労災申請はすすめないと思います。
理由は、かなり手間と時間がかかるうえに、認定されにくく、精神状態を悪化させる可能性が高いからです。
この記事を読んでいる人の中には「労災を申請することで会社の非を認めさせたい」と考えている人がいるかもしれません。もしそれが目的なら、労災申請よりも良い方法があるので後ほど詳しく解説します。
労災申請するメリット
労災申請するメリットには、次のようなものがあります。
- 医療費の自己負担がなくなる
- 休業補償が出る
- 職場環境が改善する可能性がある
以下でそれぞれ詳しく解説します。
医療費の自己負担がなくなる
労災が認定されると、治療に必要な病院代や薬代の自己負担がなくなります。仕事を休んでいる間は収入も減ってしまうため、自己負担が無料になるのは大きなメリットです。
休業補償が出る
労災が認定されると、治療のために休んでいる期間は休業補償給付が受けられます。細かな計算方法はありますが、平均賃金の60%が最長1年6ヶ月間にわたり支給されるというものです。
職場環境が改善する可能性がある
労災が認められることにより、会社側が職場環境を改善してくれる可能性があります。具体的には、長時間労働を制限してくれたり、ハラスメント防止の研修をしてくれたり、というものです。労災が頻繁に起きている事業所には、労基署の立ち入り調査が入ったり、改善の指導が入ったりすることもあります。
ただ、1件の労災申請だけでは会社も労基署もなかなか動いてくれないのが現実です。もともと長時間労働やハラスメントが横行しているようなブラック企業の場合、労災認定や立ち入り調査では反省しないこともあるようです。
労災申請するデメリット
労災申請するデメリットには、次のようなものがあります
- 会社との関係性が悪化する
- 認定に手間と時間がかかる
- メンタルの病気は認定されにくい
会社との関係性が悪化する
法律では、会社が労災を隠すことは禁止されています。また、労働者が労基署などに会社の不正を通報したからといって、不利益な扱いをすることも禁止しています。
ただ、精神疾患の労災申請はどうしても「会社VS従業員」という対立構造になりやすいです。特に経営層や上司の中には「会社の管理体制に文句をつけられた」と捉える人もいるため、復職後に気まずい思いをする可能性があります。
認定に手間と時間がかかる
労災の認定には手間と時間がかかります。実際に私が勤めていた会社でも、身体のケガは1ヶ月程度で認定されていたのに対し、精神疾患は半年以上かかっていました。
労基署は、時間をかけて勤怠状況の確認や、同僚への聞き取り作業を行っていたようです。本人も何度か労基署で面談をしていたので、体調が悪い中で対応するのは大変だったと思います。
療養中でも、時間と手間をかけて手続きを進めなければならないという点は知っておきましょう。
メンタルの病気は認定されにくい
メンタルの病気は目に見えないため、認定のハードルが高いのもデメリットです。
仮に「手を切った」「骨が折れた」といった身体のケガであれば、原因がはっきりしています。しかし、メンタルの病気は本人の性格面や私生活の状況などいろいろな要素が影響するため、慎重に判断されるのです。
例えばパワハラ上司がいたとしても、同僚が全員うつ病を発症するわけではありません。本人の繊細さが原因の1つなのか、それとも誰でもうつになるぐらいひどい状況だったのかを精査するため、職場への聞き取りが行われる場合もあります。
労災申請以外の解決方法
次のような目的で労災申請を考えているのなら、違う解決方法もあります。いろいろな事例を見てきた上で、「私ならこの手段を選ぶ」という方法をご紹介します。
- 収入面の補償を受けたい場合
- 会社の過失を認めさせたい場合
- 良い環境で働きたい場合
収入面の補償を受けたい場合
病気で休んでいる間の収入補償を受けたいのなら、社会保険の「傷病手当」という制度が使えます。具体的には、標準報酬月額の平均額(≒月給)の3分の2の金額が最長1年6ヶ月にわたり支給されるというものです。
傷病手当は労災に比べてかなり申請が通りやすく、スムーズに支給されます。
会社の過失を認めさせたい場合
長時間労働やパワハラなど、会社の過失を認めさせたい場合は、直接会社と話し合うか、民事訴訟で慰謝料を請求した方が効果的です。
なぜなら、労災という制度は労働者を守ることがメインであり、会社を罰する手段としては弱いからです。しかも、労災が認定されても治療費や休業補償は保険から支払われるため、会社が費用を負担するわけではありません。
会社に非を認めさせる目的であれば、労災申請よりも民事訴訟が適切です。
良い環境で働きたい場合
メンタルの病気は、過労やストレスが原因で発症することが多いです。良い環境で安心して働きたいと思うのであれば、今の職場に改善を求めるよりも、転職した方が早く解決できます。
私自身もブラック企業で働いたことがありますし、面接官として多くの応募者からひどい会社の話も聞いてきました。しかし、残念ながらブラック企業が短期間でホワイトになったという話は聞いたことがありません。
良い環境で働くことが目的なら、労災申請よりも転職を検討した方が近道です。
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まとめ:メンタルの病気で労災申請をするなら、時間と労力をかける覚悟をもって臨もう
労災申請が認められると、医療費の負担がなくなり、休業補償ももらえるのがメリットです。一方で、手続きが煩雑で認定のハードルも高いというデメリットもあります。
収入の補償であれば傷病手当、職場環境の改善であれば転職、といった方法での解決も可能です。労災申請には時間と労力がかかることを理解したうえで、ベストな方法を選ぶようにしましょう。
社会復帰の準備なら…