うつ病は気分が落ち込んだり、食事・睡眠などがうまく取れなくなったりして、日常生活に支障が出てしまう病気です。日本人の約6%が生涯で経験するという調査結果もあり、誰もがなる可能性があります。
しかし、うつ病で仕事を休職したり退職したりした場合、社会復帰に苦労する人が多いのも事実です。この記事では、社会復帰を成功させるための方法やポイントについて詳しく解説します。
休職する方法について知りたい方はこちらの記事もあわせてご覧ください。
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参考仕事を休職する方法とは?必要な手続きや注意点を徹底解説
休職とは、雇用関係を続けたまま長期間仕事を休むことです。近年はうつ病や適応障害など心の病気になってしまう人も増えていますが、つらい時には無理せず休むことが大切です。この記事では、休職する方法3ステップや注意点を詳しく解説します。
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こんな方におすすめ
- うつ病や適応障害など心の病気で休職・退職した人
- 社会復帰をしたいけど何から始めれば良いのか分からない人
社会復帰の準備なら…
執筆者
やっさん
- 人事・労務歴14年
- 一部上場企業やベンチャー企業など4社で勤務
- 採用面接や給与計算、社会保険手続きなどを担当
- FP2級、ビジネスキャリア検定(人事)3級
【結論】うつ病と向き合いながら社会復帰はできる
うつ病には「やる気が出ない」「集中力が続かない」「眠れない・起きれない」などの症状があるため、仕事を続けることが難しくなり、休職や退職をするケースが多いです。
一度ブランクができると「また働けるだろうか」「どこも採用してくれないのではないか」と心配になるかもしれませんが、うつ病と向き合いながら社会復帰を果たしている人はたくさんいます。
うつ病の療養から社会復帰をするには、大きく分けて次の3つの方法があります。
- 元の職場に復職する
- 支援機関を利用する
- 新しい職場に転職する
うつ病を発症した経緯や現在の状況、これから自分がどうしたいのかによって、選ぶべき道が変わってきます。どの道を選ぶとしても、焦らずに体調第一で進めることが大切です。
社会復帰に成功した事例
ここでは、社会復帰に成功された方の事例をご紹介します。ひとことで社会復帰と言っても、状況に応じていろいろなパターンがあるのでぜひ参考にしてください。
- 試し出勤を経て元の職場へ復職
- 療養後に職場を異動して社会復帰
- 就労移行支援を利用してから転職
試し出勤を経て元の職場へ復職:Aさん
試し出勤を経て元の職場に復帰したAさんの事例です。
基本情報
- Aさん(男性・48歳)
- 職業:人材派遣会社/事務職
- 疾患名:うつ病
Aさんはうつ病で6ヶ月間休職して自宅療養をしていました。そして体調が落ち着いてきたころに、主治医から「来月から復職可能と判断する。ただし、復帰当初は業務負荷を軽減することが望ましい」という診断書をもらいました。
Aさんはフルタイムでの復職を希望していましたが、上司や人事と相談した結果、最初の1ヶ月は以下のような「試し出勤」から始めることにしました。
- 第1段階(2週間):8:30~10:30
- 第2段階(2週間):8:30~12:30
- 第3段階(2週間):8:30~15:30
- 最終段階(2週間):8:30~17:30(フルタイム)
当初、Aさん自身は「4時間ぐらいは平気だろう」とたかをくくっていましたが、初日を終えて「意外と疲れた」と感じたそうです。また、勤務を続けるうちに、同僚が忙しそうにしている中で、自分だけが軽い仕事で早く帰ることへの罪悪感をもつこともありました。
しかし、主治医から「しっかり睡眠をとって疲れをリセットすること」「周囲を気にせず自分のペースを守ること」というアドバイスを守りました。その結果、1ヶ月の試し出勤を終えて無事にフルタイムに戻ることができ、1年経過した現在も残業なしで順調に勤務を続けています。
療養後に異動して社会復帰:Bさん
療養後に職場を異動して社会復帰をしたBさんの事例です。
基本情報
- Bさん(女性・36歳)
- 職業:小学校教諭
- 疾患名:うつ病
Bさんは教員歴10年以上のベテランです。ある年に担任した5年生のクラスで、児童の問題行動やいじめ、保護者とのトラブルなどが重なり、うつ病を発症し、6月半ばから休職して自宅療養に入りました。
休職中の9月からはクリニックの復職プログラムにも通い、3学期からの復職も検討されました。しかし、復職したら学級担任をしなければならないという教員特有の事情も考慮して、結局翌年度の4月から別の小学校へ異動して復職することになりました。新しい学校では、担任を持たずに少人数制の担当教員になったそうです。
就労移行支援を利用してから転職:Cさん
就労移行支援という福祉サービスを利用してから転職をしたCさんの事例です。
基本情報
- Cさん(女性・30代)
- 職業:会社員
- 疾患名:うつ病
会社員として働いていたCさんは、職場でリーダーに昇格して業務量が増えたり、私生活では結婚したりという環境に変化により、うつ病を発症しました。会社は休職しましたが、当初は布団から出るのもつらい状況だったそうです。
しばらくして体調が良くなったのですが、近所に外出しただけで疲れてしまうため、復職は難しいと考え退職を決意しました。その後も療養を続け、「また働きたい」という気持ちになったときに主治医に紹介されたのが「就労移行支援事業所」でした。
就労移行支援とは、障害のある人の社会参加をサポートする国の支援制度です。一般の就活エージェントとは異なり、社会福祉士や精神保健福祉士などの国家資格を持つ専門家が在籍しています。就活だけでなく生活リズムの改善や自己理解プログラムなどもサポートしてくれるのが特徴です。
Cさんは就労移行支援のプログラムや職場体験を経て幼児教室の仕事に応募し、面接を受けて転職に成功しました。仕事では大変なこともありますが、就労移行支援で学んだことを活かしながら、半年以上経った今も体調を崩すことなく順調に働いているそうです。
うつ病から社会復帰をするための4ステップ
ここでは、うつ病から社会復帰をするための4ステップを解説します。あくまで一般的なステップなので、ご自身の状況に合わせて主治医と相談しながら進めてくださいね。
- 療養
- リハビリ
- 就職活動・職場との調整
- 勤務開始
STEP1:療養
うつ病かなと思ったら、早めに医療機関を受診しましょう。精神科や心療内科を受診するのに抵抗がある人もいるかもしれませんが、早期に治療するほど早く社会復帰できる可能性が高まります。歯が痛いときは歯医者に行くのと同じで、メンタルの不調を感じたら精神科や心療内科を受診すべきです。
そして、うつ病と診断されたらまずは心と身体をしっかり休めることが大切です。今後のことで焦りが生まれるかもしれませんが、体調を安定させなければ長期的には働けません。今は休むことが仕事なのだと割り切りましょう。
STEP2:リハビリ
体調が安定してきたら、生活リズムを整えて毎日決まった時間に活動する習慣を取り戻していきましょう。具体的には、起床時間を決めて朝の身支度をし、散歩をしたり通勤電車に乗ったりすることが有効です。
ポイントは、働くことを想定して気分が乗らない日や天気の悪い日などにもきちんと活動できるかどうかを確かめることです。先ほどご紹介した「就労移行支援事業所」なら、自分の体調を評価する方法やコントロールするための実践的なテクニックなども教えてくれます。
STEP3:就職活動・職場との調整
生活リズムが整ってきたら、主治医に相談したうえで仕事を再開する準備にとりかかります。
休職している人の場合は、上司や人事と連絡をとって復職の時期や出勤のペースについて相談しましょう。また、前の職場を退職している人の場合は、転職活動を始めます。
転職活動においては、うつ病や適応障害の方を専門にサポートしているエージェントもあります。出勤頻度や職場環境など、合理的な配慮がされた優良案件を紹介してもらえるので、一度相談してみるのも良いでしょう。
STEP4:勤務開始
勤務条件が整ったら、勤務を開始します。社会復帰を果たしても、きちんとセルフチェックやセルフケアをしながら過ごすことが大切です。医師のOKが出るまでは、きちんと通院や服薬も続けましょう。
社会復帰を成功させるためのポイント
ここからは、社会復帰を成功させるためのポイントを解説します。うつ病からの社会復帰は、他の身体的な病気に比べて難しいと言われています。再び休職してしまったり、転職を繰り返してしまったりするケースも多いので、以下のことに注意しましょう。
- 焦らない
- 主治医と相談しながら進める
- 周りを頼る
焦らない
療養中は「職場に迷惑をかけている」「家族の負担になっている」「早くお金を稼がなければ」など、さまざまな理由で焦りが生じます。実際、私が企業人事をしていた時にも、休職されている方のほとんどが切実な焦りを訴えていました。
しかし無理をして再び体調を崩すと、かえって社会復帰が遅れることにつながります。スモールステップで着実に積み重ねていくようにしましょう。
主治医と相談しながら進める
復職や転職をする際は、必ず主治医の意見を聞きながら進めましょう。
多くの人が、体調が回復した段階で「もう元通りに働ける」と考えがちです。しかし、この段階で医師に相談すると「まだ早い」「ストレスの原因や対処法がまだ整理できていない」と言われるケースもあります。
周りを頼る
世の中には、うつ病による療養からの社会復帰を支援する仕組みがたくさんあります。就労移行支援事業所は、条件がありますがほとんどの方が無料で利用できますし、転職エージェントの利用も無料です。
このような支援機関は病気の特性を理解していますし、就活のノウハウや優良企業の求人もたくさん持っています。また、この先自分が生きやすくなるヒントも教えてもらえるかもしれません。
社会復帰を目指すうえで心強い味方になるので、ぜひ積極的に頼ってみてください。
まとめ:社会復帰は焦らず進めることが成功のカギ
うつ病による療養から社会復帰をする方法には、「元の職場に復職する」「支援機関を利用する」「新しい職場に転職する」などがあります。
どの方法を選ぶにしても、主治医と相談しながら焦らずに進めること成功のカギです。頼りになる支援機関もいろいろあるので、賢く情報収集しながら社会復帰を成功させましょう。
社会復帰の準備なら…