近年、日本人の30人に1人が心の病気で通院・入院していると言われており、仕事の休職・復職も身近なものになってきました。一方で、復職時に無理をして再び調子を崩してしまったり、企業側のサポートが十分でなかったりすることが多いのも現状です。
この記事では、復職を考える人の不安が少しでも軽くなるように、復職の方法や成功させるポイント、よくあるトラブルなどを解説します。特にうつ病や適応障害など心の病気で休職した場合に焦点をあてていますので、ぜひ参考にしてください。
休職する方法について知りたい方はこちらの記事もあわせてご覧ください。
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参考仕事を休職する方法とは?必要な手続きや注意点を徹底解説
休職とは、雇用関係を続けたまま長期間仕事を休むことです。近年はうつ病や適応障害など心の病気になってしまう人も増えていますが、つらい時には無理せず休むことが大切です。この記事では、休職する方法3ステップや注意点を詳しく解説します。
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社会復帰の準備なら…
こんな方におすすめ
- うつ病や適応障害など心の病気で休職している人
- 復職する方法やポイントを知りたい人
執筆者
やっさん
- 人事・労務歴14年
- 一部上場企業やベンチャー企業など4社で勤務
- 採用面接や給与計算、社会保険手続きなどを担当
- FP2級、ビジネスキャリア検定(人事)3級
復職とは
復職とは、会社員や公務員が自分の都合で仕事を長期的に休んだ後、再び元の仕事に戻ることを言います。休職の理由には病気やケガだけでなく育児や介護、留学なども含まれますが、うつ病や適応障害など心の病気で休んだ場合の復職には、特有の難しさがあります。
心の病気で休職した人の復職率・退職率
上記のグラフは、厚生労働省が管轄する研究機関が、病気による休職・復職について調査した結果です。同調査で疾患別の復職率を調べたところ、メンタルヘルスで休職した人の復職率は45.9%という結果になりました。これは、3大疾病と呼ばれるがん・心疾患・脳血管疾患などと比べても低い結果です。
また、同じく休職した人の退職率を疾患別に調べると、メンタルヘルスの休職後に退職した人は42.3%でした。これは、疾病別に見るとがんの次に高い数値になっています。
以上のことから、心の病気で休職した人の復職は他の病気に比べると難しく、退職につながってしまう例も多いと言えます。
参考:メンタルヘルス、私傷病などの治療と職業生活の両立支援に関する調査|独立行政法人 労働政策研究・研修機構
復職ができるかどうかの目安
厚生労働省のメンタルヘルスに関する特設サイトでは、職場復帰の判断基準として以下のような内容を挙げています。
判断基準の例
- 労働者が十分な意欲を示している
- 通勤時間帯に一人で安全に通勤ができる
- 決まった勤務日、時間に就労が継続して可能である
- 業務に必要な作業ができる
- 作業による疲労が翌日までに十分回復する
- 適切な睡眠覚醒リズムが整っている、昼間に眠気がない
- 業務遂行に必要な注意力・集中力が回復している
社会に出て働くと誰でも疲れますし、予想外の嫌な思いをすることもあります。そのため、復職するためには生活リズムが整っていることや、上手に睡眠や休息を取って回復できる状態であることが大切です。
復職の方法4ステップ
ここからは、復職の具体的な方法について、4ステップで解説します。早く働きたい気持ちがあるかもしれませんが、職場と相談しながら1つずつ進めましょう。
- 主治医に「復職可能」の診断書を書いてもらう
- 職場と相談しながら復職プランを決める
- 試し出勤をする
- 通常勤務に戻る
主治医に「復職可能」の診断書を書いてもらう
先ほどご紹介した「復職できるかどうかの目安」を参考に、主治医に復職の相談をしてみましょう。主治医のOKが出たら、診断書を書いてもらいます。
このときの診断書は、必ずしも完全復帰ではなくても構いません。例えば「1日○時間、週○日程度の勤務を可能と判断する」や「接客以外の軽作業なら就労可能」など、条件付きで書いてもらうことも検討しましょう。
ただし、その条件で職場が受け入れてくれるかどうかは別問題です。先ほどの例で言うと「接客ができないなら、出勤しても頼める仕事がない」と言われる可能性もあります。これは、企業が利益を出すために活動している以上仕方がない点なので、頭に入れておきましょう。
職場と相談しながら復職プランを決める
診断書が用意できたら、上司や人事に連絡して復職プランを決めます。復職プランで決める内容は、「復職の時期」「仕事内容」「出勤ペース」などです。
時期については、急に「明日から」「来週から」というのは難しい可能性が高いです。あなたが休んでいる間、他の人が代わりに仕事をしてくれていたはずなので、その人たちとの調整も必要になります。
また、仕事内容は原則「元の慣れた職場に復職する」ことが推奨されています。回復したばかりの状態で、新しい仕事内容や人間関係に適応するのは負担が大きいためです。ただし、休職の原因が元々の仕事内容や人間関係にある場合は、部署を異動した方が良い場合もあります。
復職プランでは、出勤ペースを決めることも大切です。最初からフル出勤をすることは避けて、なるべく試し出勤をすることをおすすめします。試し出勤については、以下で詳しく解説します。
試し出勤をする
試し出勤とは、正式な復職の前に少しずつ身体を慣らすために行うステップのことを言います。急にフル出勤をして、調子を崩してしまうのを避けることが目的です。
企業によって認められない場合もありますが、休職中に個人的に取り組めるものもあります。具体的な方法は、以下の通りです。
- 模擬出勤:勤務時間と同じ時間帯で身支度をして外出し、図書館で勉強する、カフェで読書する、ジムで運動するなどの習慣を続けること
- 通勤訓練:出勤時間と同じ時間帯に、通勤経路を使って職場近くまで移動し、一定時間を過ごして帰宅すること
- 試し出勤:本来の職場に試験的に何日か続けて出勤する
どのパターンも、1日だけ成功したのではあまり意味がありません。何日か連続して取り組むと、疲れがたまってきたり、調子が良くない日も出てきたりすると思います。そういう日にもうまく対処できるかどうかを確かめてみましょう。
通常勤務に戻る
試し出勤がうまくいったら、主治医や職場と相談しながら通常勤務に戻していきましょう。休んだ分の遅れを取り戻したい気持ちがあるかもしれませんが、無理をしないことが大切です。
復職を成功させるためのポイント
この記事の冒頭でもご紹介した通り、心の病気による休職からの復職は簡単ではなく、再び休職してしまう人や、退職してしまう人も多いです。復職を成功させるためには、次の3つのことがポイントになります。
- 試し出勤をして徐々に慣らす
- 完璧を目指さない
- 通院・服薬を勝手にやめない
試し出勤をして徐々に慣らす
復職する際は、試し出勤で徐々に慣らすことが大切です。企業によっては、復職を支援する制度がきちんと整っていなかったり、忙しい現場で勤務時間を減らすことは「わがまま・迷惑」ととられてしまったりすることがあるかもしれません。
その場合は必ずしも職場での試し勤務ではなく、個人的な「模擬出勤」や「通勤訓練」でも構いませんので、できる範囲で取り組みましょう。
完璧を目指さない
復職の際は、完璧を目指さないことが大切です。復職してすぐは「これ以上周りに迷惑をかけられない」「心配されたくない」という気持ちが働きます。
しかし、完璧を求め過ぎると自分自身を追い込んで、また体調を崩すことになりかねません。復職後は、「いい加減(良い加減)」を意識して働くようにしましょう。
通院・服薬を勝手にやめない
復職後は、自己判断で通院や服薬をやめないようにしましょう。
仕事で調子が戻ってくると、「忙しいから病院に行く暇がない」「もう大丈夫そうだから薬は飲まなくていいかな」と考える人がいます。しかし、心の病気で処方される薬の中には、急に服薬をやめると離脱症状が出るため、少しずつ量を減らさなければいけないものも多いです。
調子が良いときこそ、その状態を維持できるようにきちんと通院や服薬を続けましょう。
復職時によくあるトラブル
ここからは、復職時によくあるトラブルをご紹介します。
- 再び体調を崩して休職する
- 職場の人間関係に悩む
- 不当に退職をすすめられる
再び体調を崩して休職する
心の病気の場合、復職しても再び体調を崩して休職してしまう人が多いのが特徴です。
厚生労働省が管轄する研究機関が、メンタルヘルスに関する休職を取り扱った企業に調査したところ、復帰後の再発は「ほとんどない」と答えた企業は47.1%にとどまりました。つまり、約53%の企業で休職を繰り返す社員がいるということです。
復職したら全てが一気に元通りになるわけではありません。まだ回復の途中だということを忘れずに、体調を最優先に考えましょう。
参考:メンタルヘルス、私傷病などの治療と職業生活の両立支援に関する調査|独立行政法人 労働政策研究・研修機構
職場の人間関係に悩む
復職すると、多かれ少なかれ職場の人間関係に悩むことがあります。具体的には、以下のような悩みがよく聞かれます。
- 表面上は温かく迎えてくれるけど、自分が「はれもの」になったような距離感を感じる
- 自分が休んでいる間に人が入れ替わってしまい、仲間はずれのように感じる
- 病名や治療の状況などを、根ほり葉ほり聞いてくる人がいる
- あること・無いことをうわさ話する人がいる
どれも居心地は悪いものですが、長期間休んでいたのは事実なので、ある程度は仕方がないことです。あからさまな「嫌がらせ」や「プライバシーの侵害」があれば問題ですが、それ以外は「職場かぎりの関係性」と割り切って、淡々と仕事をこなすことに集中してみましょう。しばらくすると、時間が解決してくれることもあります。
退職をすすめられる
職場に復職を申し出ると、ごくまれに退職をすすめられるケースがあります。
原則として、心の病気で休職をした場合でも、症状が良くなって主治医のOKが出れば復職は可能です。復職を希望する人に対して、正当な理由がなく退職をすすめるのは違法行為にあたる可能性もあります。
もし退職をすすめられたら、まずは理由を確認してください。そのうえで、あなたができる対処法などを示して、納得してもらうよう話し合いをしましょう。
ある企業では「復職後に突発的な欠勤を繰り返されると困る」という思いから、店長が個人的な判断で退職をすすめてしまった、という事例もあります。もちろん、本来は企業として復職を認めるべき内容でした。
退職をすすめられた場合は、その場で簡単に返事をしてしまわずに、慎重に対応しましょう。
まとめ:復職に焦りは禁物!段階的に進めよう
心の病気による休職からの復職率は約46%と低く、復職後に再度休職してしまう人も多いのが現状です。休職中は「金銭的に厳しい」「同僚に迷惑をかけている」という理由で、早く復職して働きたい気持ちになるかもしれませんが、焦りは禁物です。
無理をするとかえって遠回りになる可能性もあるので、段階を踏んで、1歩ずつ着実に進めていくようにしましょう。
社会復帰の準備なら…