

就労移行支援は、障害や難病を持つ方が一般企業に就職するのをサポートしてくれる福祉サービスです。
「興味はあるけど、“障害者の施設”と言われるとちょっと抵抗がある…」
「実際のところ、通う意味はあるのか気になる…」
という方も多いのではないでしょうか。
実は、私が企業で人事をしていたときに、ご縁があって実際に就労移行支援事業所を見学させていただいたことがあります。
感想を一言で表すと「めちゃくちゃ素晴らしい所!障害の有無に関係なく、社会人はみんな行った方がいいレベル!」でした。
この記事では、私が就労移行支援事業所を見学したときの内容や感想、人事目線での評価を解説します。

こんな方におすすめ
- 就労移行支援事業所の雰囲気を知りたい方
- 見学に行ってみたいけど不安な方
- 就労移行支援に通う意味はあるのか知りたい方
最初に見学するならココがおすすめ
執筆者
やっさん
- 人事・労務歴14年
- 一部上場企業やベンチャー企業など4社で勤務
- 採用面接や給与計算、社会保険手続きなどを担当
- FP2級、ビジネスキャリア検定(人事)3級
就労移行支援とは
就労移行支援とは、障害や難病を抱える方が、一般企業に就職するのをサポートしてくれる福祉サービスです。
利用期間は原則2年以内で、就職に必要なスキルの習得や職場体験などを行ったうえで、求人紹介や面接対策までしてくれます。
スキルの習得については、パソコン操作やビジネスマナーなどに加えて、障害特性に合った自己管理やストレス対処法についても身に付けられるのが特徴です。
就労移行支援を利用することで、自己理解が深まったり、自分に合う仕事に就きやすくなったりすることがメリットです。
就労移行支援の詳しいサービス内容や利用条件などについては、こちらの記事でも解説しているのであわせてご覧ください。
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参考就労移行支援とは?対象者や利用期間、メリットを徹底解説
メンタルの不調を抱えながら就職・転職を目指す方には、就労移行支援の利用がおすすめです。この記事では、就労移行支援の概要や利用するメリット、おすすめのサービスについて解説します。
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就労移行支援の1日のスケジュール
就労移行支援のスケジュールは、事業所や個人の利用時間、訓練の進み具合などによって異なりますが、一般的には次のような形で組まれています。
就労移行支援の1日(例)
9:30 通所・朝礼・ラジオ体操
10:00 1コマ(講義やグループワーク)
11:00 2コマ(PC作業)
12:00 お昼休憩
13:00 3コマ(講義やグループワーク)
14:00 4コマ(実習の準備)
15:00 振り返り・終了
将来的に一般企業に就職することが目的なので、だいたい企業の勤務時間と似たようなスケジュールが組まれています。

私が就労移行支援を見学した経緯
先にお断りしておきたいのですが、私は「利用希望者」ではなく「企業の人事担当者」という立場で見学に行きました。
そのため、利用を希望される方が見学に行く場合とは、見学の流れが少し違うかもしれません。
ただ、特別なイベントの日などではなく、ごく普通の訓練の日に見せていただいたので、事業所の雰囲気や訓練内容は参考にしていただけるかと思います。

見学内容と感想レポート
私が見学した事業所は、都内にある精神障害・発達障害に特化したタイプの事業所です。
事業所名を挙げるのは控えますが、全国に約100ヶ所の事業所を持つ、大きな会社が運営する事業所でした。
ここからは、私が実際に見た内容をレポートします。
- 事業所に到着
- 朝礼
- 1コマ目:リフレーミングの講義
- 2コマ目:パソコンを使った作業

事業所に到着
利用者さんの通所時間は9:30ということで、私は少し早めの9:00に現地に到着しました。
職員のみで朝礼をしたり、今日の訓練の準備をしたりしているところでした。
事業所の中は、画像のような感じです(実物ではなくイメージ)。
なるべく就職後の環境に近くなるよう、オフィスのような配置になっていました。
デスク、ロッカー、コピー機、ホワイトボードなどがあります。
私が見学した事業所では、個人の席は決まっていませんでした。
利用者さんは、貸与されたノートPCや資料を持って、好きな席に座るそうです。
そうこうしているうちに、利用者さんがポツポツと到着し始めました。
当たり前かもしれませんが、みなさん見た目では障害が分からず、本当に普通…。
服装はTシャツとデニムのようなカジュアルな私服でした。
特に奇抜なファッションの方はいないのですが、お一人だけ室内でも訓練中でもずっとサングラスの方がいらっしゃいました。
(多分、何らかの障害特性をカバーするためなのだと思われます。)

朝礼
9:30になり、利用者さんたちの朝礼が始まります。
着席した状態で挨拶をして、一人ずつ出欠と体調などを確認していきます。
職員「〇〇さん」
利用者「はい、元気です。」
という感じで進むのですが、「今日は頭痛がします。」「昨日は眠れませんでした。」など、不調を正直に報告される方が多くいらっしゃったのが印象的でした。
体調確認が終わったら、今日の訓練予定を確認し、各自の席で立ってラジオ体操をしていました。

1コマ目:リフレーミングの講義
この日の1コマ目は、リフレーミングの講義でした。
学校の授業のように、職員が1人ホワイトボードの前に立って話し、利用者さんは席に座ってテキストを見ながら聞くというスタイルです。
ちなみにリフレーミングとは、コミュニケーション心理学の用語です。
物事の枠組み(フレーム)について、見方を変えることで人間関係や仕事がうまくいくようになる、というテクニックです。
例えば、コップに水が半分入っているときに、「もう半分しかない」と感じるか「まだ半分も残っている」と感じるかで、悩み方が変わってくるという話です。
利用者さんたちは、こうした説明を聞いた後で「自分の短所をリフレーミングしてみよう」というワークをしていました。
「集中力がない→好奇心が旺盛」「仕事が遅い→慎重に処理できる」という風に、リフレーミングしたものをお互いに発表していました。
講義をする職員は本当に話が上手で、私も見学を忘れて聞き入ってしまいました。
後から聞いたところによると、その方は元・高校教師だそうです(どうりで上手なはず…)。
職員の中には、営業マンだった方、ジムのインストラクターだった方…など、さまざまな経歴をお持ちの方がいらっしゃいました。

2コマ目:パソコンを使った作業
2コマ目は、それぞれがパソコンを使って作業する時間でした。
人によって、タイピングの練習をしたり、エクセルで表を作る練習をしたりされているようです。
印象的だったのは、作業が完了したときや質問があるときの、職員への声の掛け方です。
利用者さんたちは、席を立って職員の元まで歩いて行き
「いまお時間よろしいでしょうか。〇〇が分からないので、教えていただけますか。」
という風に、相手の都合に配慮しつつ、簡潔に要件を伝えていらっしゃいました。
これは、企業で働く際にも大事なビジネスマナーということで、この事業所のルールになっているそうです。
他にも、書類を渡すときはクリアファイルに入れる、両手で丁寧に渡す、といった所作なども教えていました。
実際に企業で働いていると、こうしたマナーや気遣いができない人はたくさんいます。
こちらが手を離せない状況のときに平気で話しかけてきたり、バラバラの書類を黙ってデスクに置いていったりされると、うんざりするものです。
私自身も、特に20代の頃は知らないことがたくさんあり、恥をかいたり先輩に叱られたりしながら覚えました。
ただ、きちんと教えてもらう機会が無いまま社会人をやっている人も多いので、就労移行で学べるのは良いことだなと思いました。

就労移行支援を利用する意味はあるのか?
結論から言うと、就労移行支援を利用する意味はめちゃくちゃあります。
そう考える理由を、大きく2つの視点で解説します。
- 社会人としての基礎が身に付く
- 企業人事から見て、利用者は採用しやすい
社会人としての基礎が身に付く
就労移行支援は「障害者の就職支援」という位置づけではありますが、社会人はみんな受けた方が良い内容だと思いました。
特に、私が見学させていただいた事業所は精神障害や発達障害に特化したところだったので、講義のレベルを知的障害者に合わせることもなく、大学の授業に似た高度なものでした。
また、ビジネスマナーやストレスケアについても、実践を含めて身に付けられるのは貴重な機会だと感じました。
一般企業でも、新卒でしっかりした企業に入社すれば、じっくり時間をかけてビジネスマナーの基礎を教えてもらえるかもしれません。
しかし、小さな企業に入社した人や中途で入社した人は、そこまで丁寧な教育を受けられないのが現実です。
ましてや、人との適度な距離感のとり方、気持ちが落ち込んだときの回復の仕方などは、誰も教えてくれません。
学ぶ機会が無かったのに、いつの間にか常識として求められたり、「できない人」と評価されたりすると、働きづらさを感じるのは当然です。
そういう意味でも、就労移行支援を利用することは絶対に役に立つと思います。

企業人事から見て、利用者は採用しやすい
企業人事という目線から見ても、就労移行支援は価値あるサービスだと言えます。
なぜなら、就労移行支援に通っているということは、毎日きちんと時間通りに出勤できるという証明になるからです。
多くの社会人は気付いていないかもしれませんが、毎日体調を整えて、同じ時間に出勤するというのは、実はとてもすごいことです。
私は人事をしていたので、遅刻が直らない人、無断欠勤する人、メンタルの不調で出勤したくてもできない人…など、いろいろな人を見てきました。
どれほど能力が高くて仕事がデキる人でも、ちゃんと出勤してくれるかどうかが怪しい人には、重要な仕事を任せられません。
面接では、みんな「頑張ります!遅刻・欠勤はしません!」と言いますが、口では何とでも言えるのです。
特に、うつ病や適応障害の方の場合、体調に波があって当然ですから、余計に「本当に採用して大丈夫かな…」「頻繁に休んで、既存社員の負担にならないかな…」と考えてしまうのが本音です。
そういうときに、「就労移行支援に半年通って、休んだのは2回だけです」のような実績を聞けると、「それなら大丈夫だな」と安心して採用できます。
毎日きちんと出勤できることを証明できるだけでも、就活では有利になるはずです。

おすすめの就労移行支援事業所
ここからは、おすすめの就労移行支援事業所を紹介します。
実際に私が見学に行った事業所ではありませんが、訓練内容、就職実績、口コミ評判などを総合的に見て、信頼できる事業所を厳選しました。

LITALICOワークス
LITALICOワークスは、株式会社LITALICOが運営する就労移行支援サービスです。
全国130ヶ所以上に事業所があり、これまでに累計15,000名以上の就職をサポートしてきた豊富な実績があります。
専門的なアセスメントに基づいて、200以上の独自ブログラムから一人ひとりに合った支援を提供しています。
LITALICOワークスの利用を前提としていなくても、無料で就職相談もできますので、迷っている方はぜひ気軽に相談してみてください。

ココルポート
ココルポートは、株式会社ココルポートが運営する就労移行支援サービスです。
これまでに累計約5,000名、2024年度だけでも893名の方の就職を支援しています。
一人ひとりの悩みに寄り添う支援が特徴で、例えば通所の頻度については週2日半日のみからのスタートも可能です。
また、交通費の補助(月1万円上限)や無料のランチ提供など、経済面のサポートも手厚いのが魅力です(※一部、対象外の事業所もあります)。

atGPジョブトレ
atGPジョブトレは、株式会社ゼネラルパートナーズが運営する就労移行支援サービスです。
atGPジョブトレには、うつ症状コース、発達障害コース、統合失調症コース、聴覚障害コース、難病コースという障害別の5つのコースがあるのが特徴です。
プログラムも障害に応じた内容になっているため、よりきめ細やかなサポートが受けられるうえ、同じ悩みや目標を持つ仲間もできやすくなります。
この他、未経験からWebデザイナーやプログラマーを目指せるITスキルコースもあります。
障害とうまく付き合っていく方法を身に付けたい方におすすめのサービスです。

Neuro Dive
Neuro Diveは、人材大手のパーソルグループであるパーソルチャレンジ株式会社が運営する就労移行支援サービスです。
AIや機械学習、データサイエンスといった最先端の高度なIT技術を身に付けられるのが特徴です。
実際に、卒業生の約8割がエンジニアやマーケティング、データサイエンティストなどの専門職として就職していて、年収アップを実現した方も多くいらっしゃいます。
IT業界やデータ分析に興味がある方にぴったりのサービスです。

勇気を出して、就労移行支援を見学してみよう!
私は実際に就労移行支援事業所を見学して、「利用する権利がある人は絶対に使った方が良い!」と感じました。
うつ病や適応障害のようなメンタルの不調を抱える方の場合、なかなか体調が安定せず、休職や転職を繰り返してしまう方も多くいらっしゃいます。
おそらく、「もっと頑張らなければ」「人に迷惑をかけてはいけない」という責任感が裏目に出ているケースも多いと思います。
就労移行支援を利用すれば、体調を安定させるコツや、上手に周りの助けを借りるコツも身に付きます。
いま、就労移行支援に興味はあるけど迷っているという方は、ぜひ勇気を出して見学に行ってみてください。
最初に見学するならココがおすすめ